こんにちは。
ちゅんちゅんです 🐣

先日、京大の望月先生の ABC 予想を証明した論文の査読が完了し
ニュースになりましたね。
僕が大学受験生だった頃に提出された論文で、
その当時から「何やらすごい論文が提出されたらしいぞ」と世間で話題になっていました。
ついに 受理されたのか、と感慨深いです。

そこで、今日はその ABC 予想とは何なのかを紹介します。
また、ABC 予想に類似した「多項式版 ABC 予想」というものもあり、それも紹介します。
分かりやすく区別するために、この記事においては
望月先生の証明した ABC 予想のほうを「整数版 ABC 予想」と呼ぶことにします。

「整数版 ABC 予想」の証明は非常に難解で僕にもチンプンカンプンですが、
「多項式版 ABC 予想」のほうは証明が簡単で、中高生レベルの知識で証明できます。
なので、多項式版 ABC 予想については証明も与えておきます。 

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この記事の内容は、主に次の 3 つです。
① 整数版 ABC 予想と多項式版 ABC 予想の紹介
② ABC 予想の歴史
③ 多項式版 ABC 予想の証明


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整数版 ABC 予想の紹介

整数版 ABC 予想を紹介するために、「根基 (rad)」と呼ばれる概念を導入しておきます。

整数 $n$ の素因数分解が $n=p_{1}^{e_{1}}p_{2}^{e_{2}}\cdots p_{k}^{e_{k}}$ のとき、

rad $(n):=p_{1}p_{2}\cdots p_{k}$
 
と定め、これを 「$n$ の根基」といいます。

例えば、$n=12=2^{2}\times 3$ のとき rad $(12)=6$ であり、
$n=16=2^{4}$ のとき rad $(16)=2$ です。


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さて、準備が整いましたので、整数版 ABC 予想を紹介します。
整数版 ABC 予想とは、次の主張のことです。

整数版 ABC 予想

$\varepsilon$ を正の数とし、$c$ を正の整数とする。
このとき、有限個の $c$ を除いて次の条件が成り立つ。

条件: 互いに素な正の整数 $a,\ b$ を、$a+b=c$ となるように取る。
このとき、$a,\ b$ の取り方に関わらず次の不等式

$c\le\mathrm{rad}(abc)^{1+\varepsilon}$

が成り立つ。

つまり、ざっくり言うと、

「$c$ と rad$(abc)$ とを比べたら大体いつでも $c$ のほうが小さくなるよ」

という感じのことを主張しています。


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多項式版 ABC 予想の紹介

まず、注意を述べておきます。

簡単のため、この記事では次の 2 つの条件をみたすような多項式のみを扱うことにします。
条件 1. 係数はすべて実数である。
条件 2. 最高次の係数は 1 である。

つまり、$x^{3}+2$ とか $x^{2}+\pi x+\sqrt{2}$ とかは扱うけど、
$2x+3$ とか $x+\sqrt{-1}$ とかは扱わないことにします。


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さて、「多項式版 ABC 予想」を紹介するために
2 つの概念 「次数 (deg)」と「根基(rad)」を導入しておきます。

次数のほうは多項式に特有の概念であり、
根基のほうは整数版で導入した概念と似ています。


まず「次数」の説明をします。

多項式 $f(x)$ が与えられたとき、
「$f(x)$ において $x$ が最大で何回かけ合わせられているか」
を「$f(x)$ の次数」といい、deg $(f(x))$ と書きます。

例えば、$f(x)=x+2$ のとき deg $(f(x))=1$ であり、
$f(x)=x^{3}+x^{2}+x+1$ のとき deg $(f(x))=3$ です。


次に「根基」の説明をします。

多項式 $f(x)$ が与えられ、実数係数の範疇におけるその因数分解が
$f(x)=P_{1}(x)^{e_{1}}P_{2}(x)^{e_{2}}\cdots P_{k}(x)^{e_{k}}$ だったとします。
このとき、
rad $(f(x)):=P_{1}(x)P_{2}(x)\cdots P_{k}(x)$

と定め、これを「$f(x)$ の根基」といいます。

例えば、$f(x)=x^{3}+x^{2}-x-1=(x+1)^{2}(x-1)$ のとき
rad $(f(x))=(x+1)(x-1)=x^{2}-1$ です。
$f(x)=x^{3}+x^{2}+x+1=(x^{2}+1)(x+1)$ のとき
rad $(f(x))=(x^{2}+1)(x+1)=x^{3}+x^{2}+x+1$ です。


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では、準備が整いましたので、多項式版 ABC 予想を紹介します。
多項式版 ABC 予想とは、次の主張です。

多項式版 ABC 予想

$C(x)$ を多項式とし、互いに素な多項式 $A(x),\ B(x)$ を、
$A(x)+B(x)=C(x)$ となるように取る。
ただし、2 つの多項式が互いに素であるとは、
因数分解したときに互いに共通する因子がないときをいう。

このとき多項式 $A(x),\ B(x),\ C(x)$ の取り方に関わらず、
必ず次の不等式

$\mathrm{deg}\ (C(x))<\mathrm{deg}\ (\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))$
 
が成り立つ。

つまり、

「deg $(C(x))$ と deg $(\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))$ を比べたら
必ず deg $(C(x))$ のほうが小さくなるよ」

ということを主張しています。

ちなみに、$A(x),\ B(x),\ C(x)$ の取り方によらず
次の 2 つの不等式も成り立ちます:

$\mathrm{deg}\ (A(x))<\mathrm{deg}\ (\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))$
$\mathrm{deg}\ (B(x))<\mathrm{deg}\ (\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))$


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この節の最後に、環論や体論を知っている人に向けて注意をしておきます。

上に述べた多項式版 ABC 予想は、
この節の最初に述べた 2 つの条件をもっと緩くしても成り立ちます。

具体的には、
条件 1 → 標数 $0$ の体上の多項式環
条件 2 → モニックとは限らない一般の多項式
と置き換えられます。

この場合も、証明の方法は次の次の節で詳しく述べるものと全く同じです。


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ABC 予想の歴史

じつは、ABC 予想は、
歴史的には「整数版」よりも「多項式版」のほうが先に注目されていました。

1981 年、ヨーロッパの 2 人の数学者 メーソン氏とストーサーズ氏が
「多項式版 ABC 予想」を発見し証明しました。

それを受け、1985 年にヨーロッパの別の 2 人の数学者 オステルレ氏とマッサー氏が
「整数の世界においても似たような性質がありそうだ!」と考え、
「整数版 ABC 予想」を提唱しました。


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あとで詳しく述べますが、「多項式版」の証明は非常に簡単で、
高校で習う数学の知識だけで証明が出来ます。

ところが、「整数版」のほうは そうはいきません。

1985 年に予想が提唱されてから 2012 年に望月先生が証明を投稿するまでの
約 27 年間もの間、他の誰にも「整数版」を証明できませんでした。

しかも、望月先生の証明方法は非常に難解で、
高校生レベルの数学知識ではもちろん理解できないし、
それどころか世界中の一流の数学教授たちにとっても理解は困難なようです。


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では、なぜ「多項式版」と「整数版」とで証明の難しさに差が出るのでしょうか?

その答は、「使える道具の多さ」にあります。

後で詳しく述べますが、多項式版の証明のポイントは
「多項式を微分して考える」というところにあります。

整数の世界では微分の概念が無いため、回り道をする必要があります。
そのため、整数版のほうは難解な証明になってしまうんですね。

それでは、次の節で「多項式版 ABC 予想」の証明を与えます。


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多項式版 ABC 予想の証明

この節では、多項式版 ABC 予想の証明の概略を与えます。

$D(x)=A(x)B'(x)-A'(x)B(x)$ とおきます。
ただし、$A'(x)$ とかは $A(x)$ とかの微分を表します。
この多項式 $D(x)$ を介して多項式版 ABC 予想を証明します。

目的の不等式を示すためには、
次の 2 つの不等式を証明すれば十分です:

(1) $M +\mathrm{deg}\ (D(x)) < \mathrm{deg}\ (A(x)B(x)C(x))$
(2) $\mathrm{deg}\ (A(x)B(x)C(x)) < \mathrm{deg}\ (D(x)) + \mathrm{deg}\ (\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))$


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まず、不等式 (1) を示します。

$D(x)$ の定め方から、

$\begin{array}{rl}\mathrm{deg}\ (C(x))+\mathrm{deg}\ (D(x))\le&\!\!\mathrm{deg}\ (C(x))+\mathrm{deg}\ (A(x))+\mathrm{deg}\ (B(x))-1\\ <&\!\!\mathrm{deg}\ (A(x)B(x)C(x))\end{array}$

が成り立ちます。


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次に不等式 (2) を示します。

多項式 $A_{1}(x),\ B_{1}(x),\ C_{1}(x)$ を

$A_{1}(x):=\dfrac{A(x)}{\ \mathrm{rad}\ (A(x))\ },\ \ B_{1}(x):=\dfrac{B(x)}{\ \mathrm{rad}\ (B(x))\ },\ \ C_{1}(x):=\dfrac{C(x)}{\ \mathrm{rad}\ (C(x))\ }$

とおきます。

このとき、$D(x)$ の定め方から、ある多項式 $E(x)$ を用いて
$D(x)=A_{1}(x)E(x)$ と表せることが分かります。

また、関係 $A(x)+B(x)=C(x)$ を用いて

$D(x)=A(x)C'(x)-A'(x)C(x)=C(x)B'(x)-C'(x)B(x)$

と表せます。
よって、ある多項式 $F(x),\ G(x)$ を用いて
$D(x)=B_{1}(x)F(x)=C_{1}(x)G(x)$ と表せることが分かります。

以上の考察と、$A(x)$ と $B(x)$ が互いに素であることから、
ある多項式 $H(x)$ を用いて
$D(x)=A_{1}(x)B_{1}(x)C_{1}(x)H(x)$ と表せます。

よって、次の関係

$D(x)\ \mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x))=A(x)B(x)C(x)H(x)$

が成り立ちます。
この両辺の次数を比べることによって、示したかった不等式

$\mathrm{deg}\ (D(x)) + \mathrm{deg}\ (\mathrm{rad}\ (A(x)B(x)C(x)))>\mathrm{deg}\ (A(x)B(x)C(x))$

が分かります。


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以上で、多項式版 ABC 予想の証明はおしまいです。

書いてるうちに感じたのですが、証明への貢献度は
「微分」よりも「deg」のほうが強いかもしれないです。

deg を考えることによって、
積の情報 $\mathrm{deg}\ (f(x)g(x))$ が和の情報 $\mathrm{deg}\ (f(x))+\mathrm{deg}\ (g(x))$ に
置き換えられるのがミソですね。


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じつは多項式の世界と整数の世界は非常によく似ていて、
ABC 予想以外にも 2 つの世界で類似して成り立つ定理がいろいろあります。

それらの定理についても、今後紹介していきたく思っています。


では。